「天然の藍と伝統の技法にこだわって」

染色家(魚橋呉服店 店主) 魚橋 正昭

5年前から独学で藍染を

今年1月に東京・有明の東京ビッグサイトで開かれた「IFF(インターナショナル・ファッション・フェア)」で、来場者の注目を集めた「藍染め(かちん染め)」の皮革を用いたバッグ。
この藍染めを手がけた染色家が魚橋正昭さんである。
古い町並みが続く野里地区の威徳寺町で代々続く老舗呉服店の店主でもある魚橋さんが、独学で藍染めを始めたのは5年前。

不振が続く呉服業界にあって、できれば呉服に近い分野で新しい仕事を切り開きたいとの思いがあったからだそうで、自ら「後発」と話すが、呉服という染織の世界に長く身を置いただけに藍染めは身近な存在で、ジャパン・ブルーとも呼ばれる風合いのある藍色に強く惹かれたのが一番の理由だという。

地元の天然の藍との出会いが

藍の主成分であるインジカンという色素を持つ含藍植物は何種類もあり、藍染めは世界中にあるが、魚橋さんがこだわったのは、地元の藍を使った日本の伝統技法による藍染め。

それを叶えてくれたのが、西脇市で藍の葉を無農薬栽培している播磨藍師・村井弘昌さんとの出会いだったという。

魚橋さんによると、藍は2月頃に種子を蒔き、梅雨明けぐらいから何度か刈って乾燥させ、秋口になってから細かく刻んだ葉を室(むろ)に入れて山積みし、水を打ったり切り返し(混ぜ合わす作業)を何回か行い、60℃ぐらいの温度で発酵させるのだという。

こうして出来上がったのが草かんむりに染と書く「すくも」。

見た感じは堆肥のようだが、これを村井さんから仕入れてから、いよいよ魚橋さんの仕事が始まる。

すくもを瓶(かめ)に仕込み、石灰や木灰などのアルカリ成分を入れ、熱湯を注ぎ、1日に2、3度木の棒で攪拌する。

他にも発酵を促進するために瓶に毛布を掛けてやったり、酒を加えたり、灰を継ぎ足したりと、カンと経験がものをいう作業を続くが、うまく発酵すれば2週間ほどで液面に紫がかった金色の泡が張ってくる。

これがいわゆる「藍の華」で、ようやく染色ができる状態になったというわけだ。

こうしてできあがると、泡を一時的に除いた瓶の中の染め液に布を入れ、時間をかけて染色していく。

そして藍の成分をつけた布を引き上げると、水中の酸素や空気中の酸素によって一層美しく酸化発色するが、染めムラができないようにするためには、そのあたりの引き上げ加減も難しいという。

藍染めで人とまちを元気に

魚橋さんの仕事場は、姫路市都市景観重要建築物にもなっている自宅の一画。
町家ならではの通り庭と店の間に藍を仕込んだ瓶と作業台が並んでいる。
伝統的な日本家屋で、夏涼しく冬は冷たいという構造のため、一般には冬場の仕事である染色が夏でもできるのだそうで、自宅近くで汲み上げる井戸水もまた染色に向いた良い水。

「環境には恵まれている」と魚橋さんは語る。

「野里のすぐ北の白国には・かちん染め・の伝説が残っていますし、古地図を見るとこのあたりには藍染川と呼ばれる川が流れていた。水が良いせいか紺屋が多かったようですし、古くから藍染めが盛んだったことが分かります。ですから藍染めを再興することによって地元のまちづくりに一役買いたい。西脇の藍を使うのも、姫路特産の皮革を染めるのも同じ思いからで、地産地消に取り組みたいし、石油化学の産物である合成染料は私たちの生活に限りない恩恵をもたらしてくれましたが、伝統の中にこそ未来を切り開く知恵があるのかもしれません。

そう話す魚橋さんが新たに取り組んでいるのが、増位山に自生するソヨゴや、天然着色料としても用いられているクチナシを使った草木染め。

見せていただいた作品は藍染めの青とソヨゴの赤味、クチナシの黄色がグラデーションのように展開するタペストリーで、じんわりと心に染み込んでくるような美しさ。

「天然の染料は合成染料と違って色味も深いし、心にも体にも優しいから、きっと脳を活性化し、人を元気づけると思うんです。ですから私の作品を高齢者の方の施設とか病院に飾っていただけたらと。それが夢といいえば夢ですね」

魚橋さんははにかむように話すが、スタートが遅かったとはいえ、天然染料や伝統技法、地産地消や人と環境への優しさにこだわった染色家として今後の活躍が期待されそうである。

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