1,000年以上の伝統を誇る姫路特産の白なめし革。
その伝統を継承しながら時代のニーズや環境に合わせた白なめし革を作り、全国各地のクリエーターたちとコラボレーションしながら多彩な皮革グッズを市場に送り出しているのが新田眞大さんである。
新田さんが白なめし革に挑戦するようになったのは、伝統ある白なめし革も継承者がたった1人きりとなり、危機感を抱いた新田さんの伯父が世話人となって2,000年に白なめし革保存研究会を設立。
その中心メンバーとなったのがきっかけで、白なめし革の技法を記した古文書や科学的な分析を行った書物などを読み、試行錯誤を繰り返しながら今日まで挑戦し続けてきたという。
白なめし革とは、牛などの原皮を脱毛し、塩と菜種油で揉み上げ、天日にさらして動物本来の肌色に仕上げる革のことで、化学薬品を用いず自然の恵みだけをいただいて作る、人にも環境にも優しい「エコな皮革」として高い評価を受けている。
だが、新田さんは「化学薬品を用いないからエコ」という文脈を嫌う。
自分たちの仕事は太陽の光、水、塩や植物の油といった自然の恵みをいただき、食料としていただいた動物の副産物である皮をもう一度使わせてもらっている。
そうした長い歴史に横たわる人間と皮の付き合い方に思いを致し、感謝と優しさを持って作ることがエコなのだというのである。
技術的な話をすると、なめしは「止める難しさ」だと新田さんはいう。
なめしが浅いと思う革にはならない。
かといってなめし過ぎると、柔らかくなる代わり弱くなる。
どこで止めるかがポイントなのだという。
皮は自然界のバランスの中で生きている。
その時どきの温度や湿度に影響されるし、原皮の運搬や保管の過程でも常に呼吸しており、刻々と変化している。
動物として生きている間だけでなく、皮になってからも「生きている」。
だから定型化したなめし方は存在しない。
その時どき、1枚1枚が勝負で、長年の経験で培ってきた皮を見る目、指先に伝わってくる感覚など、五感が決め手になって良い革が生まれる。
だから常に考えることが要求され、試行錯誤を繰り返しているのだという。
できあがった革の善し悪しも自分で決めるものではないという。
あくまでもその革を使ってものづくりを行っているクリエーターや、その商品を手にしたお客さんに気に入ってもらえなくては意味がないとも話す。
だから様々な展示会にも出展し、多くの人たちの話や意見を聞く。
だから「自分がなめした革だと気づかず、お客さんから良い革ですね、と言われることが一番うれしい」と新田さんは笑う。
このあたりはまさに職人気質である。
もう一つ、新田さんの話を聞いて、いかにも職人さんだなあと感じたのは、新田さんが手の手入れにこだわっていること。
「僕らの仕事は体で感じる仕事なんです。もちろんメモを取ったりデータに取ったりもしていますが、体に覚えさせなければならない仕事。皮肌の感触を指や手でしっかりつかんでおかないと良い仕事ができない。だから手の手入れには気を配っています。手仕事ですから、どうしても手の皮が厚くなってしまう。皮の柔らかさや含んでいる水分量を感じ取るのも手ですから、手の状態を一定にしておくためにも手入れは怠れない。仕事が終わると、『かわびじん』という僕がシカ革から作った洗顔用の革に水を含ませ、手をなでる感じでマッサージし、オリーブオイルを塗るなどして手入れをしています。それと健康あっての技ですから健康管理にも気を使っています。体が元気じゃないと良いものは作れませんから」
新田さんは少しテレながらそう話すが、まさに真実をついた言葉のよう。
技だけでなく、道具の手入れにも気を配るのが職人さんの世界だが、新田さんの道具とは自分の手であり五感。
そのあたりを大切にしているというあたりに職人の世界の奥深さがうかがえた。